リミテッド・スリップ・デフ用オイルに求められる特性

潤滑油=オイルと言えば、まず摩擦を少なくすることというのが、誰の頭にも思い浮かぶでしょうが、それが必ずしも当てはまらないことが自動車の中の部分にはあります。例えば、リミテッド・スリップ・ディファレンシャル(LSD)がそれです。特にスポーツ用の機械式=フリクション・プレート式(クラッチ・プレートにより左右への駆動力分配をコントロールするもの)のLSDの場合、オイルには単に摩擦を少なくするという特性ではなく、摩擦をコントロールするという特性が必要です。
フリクション・プレートは、左のドライブシャフトにつながったプレートと右のドライブシャフトにつながったプレートが、互いの回転数(=相対的な速度差)が大きく異なった際に、互いに押し付けられ、パワーが空転する車輪に逃げるのを防ぐという構造ですが、ここに使われるオイルは、プレート同士の滑り具合をいかにコントロールするかがポイントとなるわけです。
つまり左右のプレートに回転速度差が生じた時にその速度差が大きくても小さくても常に安定した、変化の度合いが少ない摩擦係数(摩擦の大きさ)が必要なのです。速度差が少なくなるに従って(すなわちLSDが効くに従って)摩擦係数が高くなると、LSDの効きが急に強くなる現象となり、パワーの振り分けがスムーズにいかなくなります。ブレーキで言うと止まる直前のかっくんブレーキでしょうか。普通にブレーキをかけていくと、ディスクとパッドの回転差が小さくなって来た時に、摩擦係数が高くなり急にがくんとつんのめるように止まるようなものです。逆に摩擦係数が低くなっていくと、LSDが十分に機能しないということになります。思ったよりもスーッと停止線を超えてしまうようなものです。ほとんどのギアオイルがこのような特性を示します。
さらに、温度による摩擦係数の変化もできるだけ少ないことが、よいLSD用オイルの条件となります。プレートの状況により、オイルの温度は部分部分で高くなったり、低くなったりします、走りはじめは当然温度は低いものです。同じ効き方を提供するには、温度により摩擦の大きさが一定でなければならないのです。
プレートの素材も重要な要素なので、オイルだけの問題に単純化はできないということを頭に入れていただいた上ですが、LSD用のオイルはその他のギアオイルとは違ったテクノロジーで開発設計されているのです。専用オイルが必要なのです。


日本クラシックカー会報誌「オイル・色々ばなし−31」(当社営業部長寄稿)より




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