最近のエンジンオイルには摩擦をできるだけ少なくするために、まず間違いなく摩擦軽減剤(フリクション・モディファイヤー=FM)が配合されています。エンジンの出力をアップさせ、燃費を少しでも稼ぐために、ほんのわずかなゲインでも確実にものにするために、たどり着いた技術がこの添加剤なのです。しかし、摩擦をいかにもなくすかのような宣伝文句で飾られる、この“薬”はエンジン内のすべてに万能なわけではありません。エンジンはオイルのたった一つの成分がすべての部位で効果があるような、単純な構造ではあません。
潤滑油の実際では、主要な三つの部位で潤滑の仕方が異なります。第一にコンロッドとクランクのメタル部分、これはエンジンの回転が上がるにしたがって、流体潤滑と呼ばれる潤滑の領域に入ります。十分な油膜が金属と金属の間に確保されている状態です。第二にシリンダー部分で、これは混合潤滑と呼ばれる領域で流体潤滑と金属が接触した潤滑の領域です。油膜が極限まで薄くなった状態です。第三に動弁系(カム、タペット)。これは金属同士が強い圧力で押し付け合われ、且つこすれあうスピードが遅いといった状態で、油膜が切れて、金属同士が接触している状態で、境界潤滑と呼ばれます。(エンジンの回転数でこの潤滑領域は変わります。あくまでも典型的な状態です)
流体潤滑の領域が当然もっとも理想的な潤滑の状態で、金属磨耗も理論的にありえません。ここでは流体自体の抵抗が摩擦抵抗を減らすポイントとなります。つまり、オイルの粘度が低いほうが摩擦抵抗が少ないということになるのです。そして金属表面に作用する摩擦軽減剤はこの領域では一切効果がありません。低粘度のオイルが、省燃費オイルとして評価されているのは、そのためです。ベースオイルの力の領域なのです。
一方もうひとつの極端な領域、境界潤滑においてはベースオイルの性能は関係がなくなります。ここでこそ摩擦軽減剤の力が効いてくるのです。混合潤滑はこの二つの中間です。お分かりいただけたでしょうか。摩擦軽減剤はエンジンのすべての部分で有効なのではなく、動弁系、そしてシリンダーにおいて半分ほどの効果があるのみなのです。
エンジンオイルは、たった一つの成分の力で、摩擦を減らせるほど単純なものではありません。
日本クラシックカー会報誌「オイル・色々ばなし−23」(当社営業部長寄稿)より
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